第一章
07.難事百出

 夜が明け、三人は再び足跡を辿り深い森を彷徨った。朝もやが濃い中、太く盛り上がる木の根を踏破し、沢のさざめきに幾度も足元を濡らした。鬼の足跡を見失うことはなかったが、それでもなかなか遭遇するまでに至らない。平時であるなら鬼との遭遇を凶と思うが、追えば遠ざかる今の状況に凶と思うばかりだ。これではどちらが鬼かわからない。
 しかし追いかけっこをいつまでも続ける訳には行かなかった。早々に大型鬼を一掃しなければ、里の戦力疲弊はますます免れないものとなる。
 異界へ出れば、道端の石ころのように遭うだろうとの考えは少し浅かった。大和に進言した手前、まだ一体も討伐出来ていない現状に旭陽は焦りがあった。加えて、もうひとつ問題が浮上してしまった。
 瘴気だ。鬼が巣食う土地は濃い瘴気に侵されているがため、三人はなるべく薄い箇所を選び進んでいるが、慣れている二人に比べて旭陽には毒気への抵抗力がほとんど皆無であり、早速あてられてしまったのだ。異界に身を投じていると時間が経つに連れ、気だるい症状に見舞われていた。ずっと船酔いをしている感覚が続いている。里から大分距離も離れたが為に当然引き返すことも出来ず、那木から貰った解毒薬を飲み進んでいる状態だ。
 追っている足跡は確実に新しいものへと近づいていた。富嶽も警戒心がより一層増し、殺気立っている。その後ろを旭陽と那木が続いた。那木は旭陽の顔色の悪さが気になっている様子だ。背に手をあてて、彼女は幾度も旭陽を覗き込んだ。

「旭陽様、瘴気の薄いところで暫らく休みましょう。このまま進んではいけません」
「大丈夫です…。今道から外れたら距離が縮まらないですし。私頑張ります…。うっ、ぎもぢわるい…」
「おい、てめえが万全じゃなけりゃ、俺らの足を引っ張るだけだろうが。おい那木、そこの茂みから森に入れ。こいつ、ぎりぎりまで我慢しやがって、ったく世話の焼ける」

 富嶽は、ため息をつくとおもむろに旭陽の脇腹に腕を回し、ひょいと抱きかかえた。人が寄り掛かれそうな太い木の根を見つけると、そこへ旭陽を下した。辺りは緑の色濃い森だ。近くには小川も流れているらしい。那木が言うに、木々の多い場所は比較的空気が澄んでいるとのことだ。
 手ぬぐいを川で濡らしてきた富嶽は顔を拭い、旭陽の前にしゃがんだ。

「盲点だったな…。こいつは、俺達に比べてあんまり瘴気に慣れてねえ」
「すみません。私も勉強不足でした…」

 謝る旭陽の頭を富嶽は大きな手で押さえつけた。

「謝るくれえなら、薬飲んでしばらく休め。ここは澄んでる。半刻もしないうちによくなる」
「はい…」
「旭陽様、申し訳ございません…。わたくしも、もう少し注意を払っておくべきでした」

 眉を下げた那木は、二粒の黒い錠剤を旭陽の口に含ませると、椀から旭陽の口へ水を注いだ。早朝に神社を発ち、服用は既に三回目だ。
 だが、瘴気の濃さは鬼の居場所に近い証拠でもある。足跡の新しさといい、確実に距離が縮まっているのは間違いないだろう。
 太陽はじきに天頂に差し掛かろうとしていた。木漏れ日が緩やかに差し込み、心地よい風が吹き抜ける。薬のお陰で旭陽は大分吐き気が収まっていた。気が張っていたらしく徐々に眠気が押し寄せる。那木と富嶽が、うつらうつらする旭陽の側でこれからの段取りを話しているのが分かった。旭陽は安堵と共に全身の力が抜け、樹の幹に頭部がこつっと当たった。
 その時、人の声とは明らかに違う音が響いた。低木の小枝同士がガサガサと揺れている。那木は弓を構えた。富嶽は庇うように旭陽の前にそびえ立った。二人の背に視界が阻まれ、その向こう側で何が起こっているのか…。ぼんやりする頭では把握に苦しむ。鬼か、獣か。
 ところが、那木の弦が一層軋んだ時、抜けたようなひょうひょうとした声が耳に馴染んだ。

「まったく。追えば追うほど遠ざかっちまう…。なあ、速鳥。これが、女の子だったらまた一興ってところだよな」
「自分には、理解し難いが…」

 茂みの中より現れたのは、息吹と速鳥だった。鏃を向けていた那木は胸を撫で下ろして構えを解き、富嶽は額に青筋を立てている。今にも血管は破裂しそうだ。思いがけない遭遇に、枝々の隙間から現れた二人もきょとんと目を瞬いていた。
 息吹は随分嬉しそうな素振りを見せた。

「よう、那木!と…、おいおい。有り余る体力や威嚇は俺らじゃなく、得物にぶつけるべきじゃないのか」
「てめえはもう少し気を引き締めやがれってんだ!なーにが、一興だ。相変わらずいけ好かねえ野郎だぜ」
「あんた、そんなんだと益々女の子に逃げられるぜ?もう少し眉間を離したらどうなんだ。おー怖い」
「ま、まあまあ。富嶽様も、息吹様もそのくらいに。双方命が無事でなによりではございませんか」

 言い合う二人の脇で静かに佇んでいた速鳥は、少しの異変にも敏感だった。旭陽を視界に捉えるとすぐさま傍らにしゃがみ、旭陽の額に手を当て、首筋で脈を測った。忍の速鳥も幾らか医療の心得はあるのだろう。彼は常に職務に忠実だ。

「那木殿、旭陽殿は瘴気に?」
「はい。わたくしの煎じた薬を飲ませましたが…。それでもお辛そうです。今朝からずっと我慢されていたご様子で」
「見る限りは、そう大事では無い、かと」
「速鳥様のお言葉を聞いて安心いたしました…。わたくしの見立てだけでは、どうしても不安でしたので…」
「しかし、こうして合流してしまったこと。状況はあまり芳しく無いように思う」
「それは一体、どういう…?」

 立ち上がった速鳥は、今だに騒がしい息吹と富嶽に振り返った。

「ご両人、少しよろしいか」

 普段から寡黙な速鳥の一声に、息吹も富嶽もピタリと言い合いを止めた。速鳥は腰の辺りから紙の束を取り出すと、地面に広げている。見るに一枚の地図だった。古ぼけているが、近隣の地形や、かつては人里だったであろう古い土地名も記されている。息吹、富嶽、那木は広げられた地図の周りに集まった。
 速鳥は、とある地点を指差した。

「今、居る場所は恐らく此処だが、自分と息吹殿は鬼の足跡や通った痕跡を辿りここまでやってきた。貴殿らもそうであろう」

 速鳥から一瞥され、富嶽は「ああ」と頷いた。

「であるならば、今確認できている鬼は最低でも二体いるということになる。同じ場所に居る可能性も無いわけではない」

 確かに、別々に行動していた富嶽の隊と、息吹・速鳥が合流したということは鬼も同じ道を辿っているのだ。那木が息を飲むのが分かった。

「桜花様は今、囮の隊を率いております…。わたくしは心配です…」
「隊員も相当数居るとはいえ、心配ないとは言い切れないな。或いは、桜花の囮が上手く行きすぎて、鬼が集まり始めているのかもしれない」
「っは、そりゃあ好都合だ。一網打尽ってな」

 目を細めた速鳥は、木にもたれ掛かる旭陽を一瞥すると、再び三人に向き直った。

「旭陽殿は、ここへ置いていくのが得策かと」

 突然の言葉に、素早く反応したのは那木だ。見捨てるわけではないことがわかるのだが、だからこそ那木は声を上げた。

「速鳥様!そのようなことはできません!」
「那木殿、自分は仰ることを理解しているつもりだが、誰かを庇いながらの戦闘は大型鬼数体を相手するにはいささか危険過ぎる。自分はあくまで、鬼ノ府としての意見を述べさせて頂く」
「速鳥様…」

 旭陽は眠たい頭で四人の話を聞いていた。確かに、速鳥の言うようにこのままでは足手まといに他ならない。那木の薬はよく効いているが、鬼と対峙し戦闘が長引けば同じことの繰り返しだ。咄嗟の判断が出来なければ、僅かなミスも命取りである。しかし、この囮計画の発案者は旭陽自身だ。どうしようかと、速鳥の提案に目頭が熱くなりかけていた。此処で大人しく留まり心配しながら皆の帰り待つか、共に行き闘うか…。
 旭陽が無意識に俯くと、円座の富嶽が首を伸ばし、那木越しに声を張った。

「おい、てめえ。那木の薬は良く効いただろうが」
「え、?はい…。随分と今は楽になりました」
「鬼と遭遇したら那木と一緒に、俺らの後方支援に回れ。気分悪くなったら絶対に那木の側を離れんな!分かったら返事しろ!」
「は、はい…!」

 再び地図に視線を落とし、富嶽は胡座をかいていた太ももをぱんと叩いた。速鳥をじっと睨んでいる。

「これでいいだろ、速鳥。やれることはやらせろ。頼らねえ奴が一番危ねえんだ」
「…貴殿の意見に、異論はない」

 目を伏せた速鳥は口布を引っ張りあげ、更に表情を隠したように見えた。が、すぐさま鬼の行き先へと話を戻した。
 辿った足跡からして、方角は凡そが北方向ではないかとの推察だ。これには、息吹が間違いないだろうと念を押した。富嶽も那木もここ数日の記憶を遡った。猫科のような足跡の爪先は常に北方向を向いていたのだ。
 顎に手を当てていた息吹は唸った。二体同時の戦闘はどうやら避けられないと見ているらしい。

「まあでも、仕方ないな。これだけ腕の立つ人間が居るんだ。何とかなるだろ。な、速鳥!期待してるぜ」
「……善処する」

 この場所に留まり、すでに半刻近くが経っていた。旭陽は薬のお陰で吐き気が収まっている。顔色も随分とよくなったと那木がほっとした様子で言うので、富嶽の判断により一行は再び目標を目指すことにした。
 ところが高木の森を抜け出た時、一気に戦慄が走った。木々が高々と天へ伸びる間から、一筋の細い煙がゆらゆらと立ち上っていたのだ。息吹は慌てて那木に確認した。

「那木っ!」
「約束の刻限ではございません!」
「敵さん、もう出ちまったか…。急ぐぞ!」

 息吹と富嶽が駆け出した。那木もその後に続く。旭陽も一歩足を踏み出したが、後方から手首を掴まれていた。振り返ると手首を握っているのは速鳥だ。森の中での会話が蘇った。この場に留まれと再び言われるのでは無いかと不安が過ぎる。旭陽は心を決めていたが、速鳥は旭陽の手を表にすると、手のひらに薬包を一つ乗せた。不思議に思う旭陽に、速鳥は簡潔に答えた。

「呼吸が楽になる。試されよ」
「…ありがとうござますっ!」

 中に入っていたのは、一粒の茶色がかった薬だ。すぐさま口に含むとニッキのような香りが一杯に広がり、息苦しさが緩和されたようだった。飲み込んだ旭陽も、急いで四人の後を追った。

 ・

 人の通らなくなったかつての街道は、酷く荒んでいた。石は土から露出し、気を抜き走れば危うく躓いてしまうくらいに、そこら中に転がっている。沿道に咲いていた草花も今は見る影もなく、しおれた茎が横たわるばかりだ。
 進むに連れ、辺りを震え上がらせるような咆哮が徐々に大きくなっていた。流石の富嶽や息吹も、武者震いというものだろうか、顔には自信あり気な笑みを浮かべるもどこか表情は硬い。那木は背負っていた弓を手に持ち直し、いつでも放てるように矢筒から矢を一本抜いていた。
 五人は開けた場所へ出た。辺りよりは少し標高のある丘陵の様な場所だ。そこから長い下り坂が続き、横断する小川を挟み、見遣った先には三体の鬼が桜花率いる里のモノノフたちと対峙していたのだ。まるで歯がたたないおぞましい光景に旭陽は地に根を張ったかのように足が動かない。
 何しろ、鬼に立ち向かうモノノフ達はまったく群がる蟻なのだ。白鉄が小さく煌めく度に、それは埃を払うように扱われている。だが、だからと言って悠長に構えている場合ではない。早く丘を下り、戦闘に加わらなければならなかった。
 息吹、富嶽、速鳥が一目散に一体ずつ種類の違う鬼へと向かっていった。隊員らは、彼らの到着に気づき、戦意を盛り返した様子だ。再度鬨を上げ、執拗に鬼に喰らいつき始めている。
 鬼のうち、一体は、恐らく旭陽たちが追っていた足跡の主だと思われた。ごわついたたてがみをライオンの様に携え、俊敏な動きに鋭い爪は正に鬼に金棒だ。上体を起こし、前足を振り上げ引っ掻く。当たれば一撃即死は免れない。更に鞭のような尾を縦横無尽に動かしていた。
 那木が、呆然とする旭陽の意識を呼び戻した。ぐいと腕を掴まれた。

「旭陽様!よろしいですか、決して私の側から離れることの無いよう。無理をなさらないでください」
「わかりました…!」
「取り敢えず、射程距離までは近づかなければ援護も出来ません。しっかりついて来てください」
「はい!」

 旭陽は丘から長い坂を下った。途中、どこからとも無く「主殿!」と声が聞こえた。旭陽の宿すミタマ、那須与一だ。

「一体は、深渊、四足の獣のような鬼は風切、もう一体の二足の太った鬼は崩山という。こうも同じ場所に集まるとは何とも狂気…。主殿、出来得る限り助太刀致します。お背中任されよ」

 旭陽はしっかりと頷き、背から弓を取り柄を握りしめた。
 那木は既に崩山へ向かい矢を放っていた。旭陽も側から、見真似て矢を放つ。その側では速鳥が風切と正面から対峙していた。しっかりと速鳥の闘いを見るのは初めての事だったが、忍なだけに攻撃は素早く、無駄が無く、躱されること無く鬼を痛めつけている。速鳥は鬼の目から潰しに掛かろうとしているのか、一層地鳴りの如く轟いた呻き声は、技の凄まじさを物語っていた。

「主殿!」

 よそ見をしていた旭陽は、反射的に地面に体を投げた。危うく、崩山の振り下げた腕に捕まるところだ。他人の戦いぶりに感服している場合ではない。すぐさま与一の叱責が飛んだ。

「何をぼうっとしておられるのかっ!」
「ご、ごめんなさい!」
「手に汗握ってしまった。ところで、桜花殿と言ったか。囮を買って出た娘の姿が見えないように思う」

 与一の言葉に旭陽は背筋が凍る思いがした。射程距離から少し離れ、落ち着いて辺りを見渡してみる。与一の言うように、桜花の姿はどこにも見えなかった。乱戦と土埃に紛れていると思っていただけに、不安と焦りがつのった。旭陽は那木に駆け寄った。

「那岐さん!桜花さんの姿が見当たりません…」
「桜花様の…?」

 するとそこへ、桜花の隊の隊員が那木のもとへ血相変えて駆けつけた。息を整えた開口一番、那木も旭陽も一気に血の気が引いた。いつになく、那木の表情は険しい。

「旭陽様!急ぎ、桜花様のところへ参りましょう」

 隊員の先導で、二人は小川を渡り、大きな岩影へと案内された。そこに横たわっていたのは、多くの負傷した隊員と桜花だった。隊員曰く、同時に三体も現れた鬼へ、先陣切った桜花だったが、翻弄される部下を身を呈し、鬼の攻撃から守ったらしい。
 薄紅色だった綺麗な着物は、真っ赤に染まっていた。風切の爪が袈裟斬りのように桜花を切り裂いていたのだ。出血も多く、直ぐに手当をしなければ危険な状態だ。現在、医療隊が此方へ向かっているらしく、じき到着するとのことだが、里との距離を考えればまだ時は掛かるだろう。
 息も絶え絶えの桜花に、那木も旭陽も必死に声を掛けた。

「桜花様っ!桜花様っ!」
「桜花さん…っ!!」

 薄く目を見開き、桜花は僅かに腕を上げた。旭陽は彼女の手を取った。人肌のぬるりとした血液と相反し、桜花の手は随分と冷たかった。それでも薄く笑みを浮かべ、気概を保つ桜花は凛々しくも痛々しい。

「や、やあ…二人共…。加勢に来てくれたのだな。礼を、言う…。怪我をしている隊員が大勢いるんだ。那木、頼む。診てやって、ほしい」
「桜花様、しゃべらないでください。い、今、わたくしが…、わた、くしが…」

 那木の声は震えていた。この凄惨さを見れば分からなくも無いのだが、旭陽は那木から医者だと聞いている。これまで幾度も負傷者救護の経験をしたものと勝手に思い込んでいたが、しかし那木の様子はどうもおかしい。処置を施そうとする那木は、旭陽の介抱をしてくれた時の頼もしさが無かったのだ。
 血を見た彼女は止血を行うも、それから先が進まなかった。
 素人目に見ても、桜花の傷は相当の深手なのは十分判別がつく。応急処置は一刻の猶予も許されないのは誰が見ても分かるものだ。桜花の呼吸は次第に浅くなる。
 時が止まったかのように動かぬ那木に、旭陽は我慢ならなかった。

「那岐さん…!桜花さんの手当、どうすればいいんですか…!私も手伝いますから!指示してください!」
「は、はい…。では着物を剥ぎましょう…。それから傷口を綺麗に、それから…」

 言われるがまま、旭陽は桜花の着物を剥いだ。美しかった筈の布地は切り裂かれ、無残に地面に積まれていく。旭陽は傷口を綺麗にと言った那木の言葉通り、手ぬぐいを濡らし体を拭いた。傷口からは止めどなく血が溢れ出る。離れた場所では、鬨があがっていた。どうやら一体、地に伏せた様子だ。
 旭陽は、今にもこらえるものを押し殺した。

「桜花さん、気をしっかり保ってくださいね…!皆大活躍です!」
「旭陽、君は随分と気丈になった…な」
「道中も、色々あったんですけど、那木さんや速鳥さんに助けてもらって…」
「そう、か…」

 桜花が苦しそうに、眉を寄せている。那木は桜花を挟み、旭陽の向かいに座っていた。傷口を診ながら肌に触れられる綺麗な指は、中々思うように動いていない。

「那木…さん…?」

 旭陽が恐る恐る声を掛けた時、早くも医療班が到着した。岩陰の後ろから、鬼から身を隠し、息を潜めての静かな到着だ。隊員は様々な道具を地面に下ろし、那木も旭陽も、応急処置をありがとうございますと礼を言われた。医療隊の医師の所見では、桜花の傷は深いが命に別状はないとの判断である。
 医療隊の人手は多く、ひとまず安堵した二人は負傷者を彼らに任すことにし、再び後方援護をすべく戦線へ駆け出した。
 息吹も富嶽もしょっちゅう言い合いをするので、端から見れば犬猿とも取れる同僚だが、いざ武働きとなれば凄まじい連携を見せ、一体目の深渊を葬った後は瞬時に崩山の足をもぎ、討伐した。速鳥も、風切に負けず劣らずの俊敏な動きで翻弄し、そのお蔭で里のモノノフが張り巡らした縄に風切を見事捕らえ、絶命させたのである。
 結局、那木と旭陽の援護は微力ではあったが、ともあれ無事に大型鬼三体の討伐に成功した。満身創痍の勝利だったが、これも桜花隊の踏ん張りあっての結果である。
 その後、現場検分も終わり、一同撤収となった。
 しかし、富嶽が那木へ桜花の具合を聞いたその一瞬の憂いた様子が、帰還した後も旭陽の頭から暫く離れなかった。