恋い慕う※中盤から温度差があるので気をつけて下さい※

 相変わらず本部は多くの人でごった返している。関所の様な役目も担うので、外から来た行商人や旅人は受付に列を成し、里から外に出る人間もまた同じだ。
 日々の任務に就くモノノフたちも、お役目や鬼の目撃情報を確認したりと大勢の人々が椿たちを頼る。人の出入りが多くなったことで目撃情報が逐一更新され、異形撃退は捗るのだが、それらを取りまとめる椿はてんてこ舞いだ。彼女は隊員たちのお役目請負や、質問に対しても丁寧に答えてくれる傍ら、行商たちに商い許可証も発行してくれる。そんな近頃の状況を鑑みた葉月は任務の合間に椿を手伝っていた。
 葉月は鬼の種類、大きさ、特徴が記された紙束を椿から預かり、手際よくそれらを任務別に振り分け隊員に渡したり、掲示をしている。
 夕刻になり異界へ出ていた隊員たちが帰還したこともあって本部は一層混雑した。金眼四つ目を携えた隊員たちは早速里外から来た人間の注目を浴びている。他里のモノノフはなんだかんだで物珍しい。その勇姿を写真機に収めようとする記者も居るほどだ。
 すると今しがた帰還した刀也がお役目処の混雑を見かね人混みを掻き分けやってきた。

「葉月手伝うか」
「刀也…!ありがとう。私は大丈夫だから、椿を手伝ってあげて」

 椿は許可証にマホロバの印を押しながら、隊員の話を聞いている状況だ。刀也はやれやれと言った様子で少し力なく笑い「分かった」と言って椿の傍らに立った。「次の者」と声を張り、受付に訪れた隊員たちを一手に引き受けた。そのお陰か、椿は許可証発行に注力でき、陽が落ちきる前に長蛇の列は解消された。最後の一枚に押印し、そのまま机へなだれ込むように手をついた椿は、はあと大きく息を吸って「今日も終わったわ…」と額をつけた。

「二人とも、ありがとう。本当に助かったわ」
「早々に人を増やせるように、紅月にもお願いしておくね。いつも無理ばかりさせてごめん、椿」
「気にしないで!これも鬼の活動が弱まってる証拠なんだからいい兆候よ。それに、父さんもやっていた事だし私もしっかり頑張らなくちゃ。あとの事は私がするから、二人は先に帰って。ありがとう」

 椿は集計やら施錠等を済ませるとの事だ。少々後ろ髪を引かれつつも「いいから、いいから」と椿は見送ってくれた。
 空は既に星が散らばり、夜風に伴って微笑むように瞬いている。討伐以外でこんなにも疲労感を覚えるのは久方ぶりだった。よろず屋の前を通れば、土産を買う客らが店主と談笑している。椿の言うように、里内での仕事が増えるのは人々の活動も流通も広がり確かに良い兆候だ。
 刀也と二人家に帰ると葉月は夕食の支度を始めた。適当な食材を色々と串に刺して炉端にぽいぽいっと指し、着流しに着替えた刀也は晩酌を始める。鎧を紐解いてくつろげる唯一の時間であり、また隊長格二人の時間が合うのもそうそうない。
 刀也に徳利を傾けていると、それまで黙って肴を食み酒を飲んでいた刀也は、ふいに何を思ったのか口に持っていく手前で手を止めた。

「椿は…、」
「うん?」
「あれは、大分強い女だな…、少し心配にもなる」

 葉月は、あ、と思った。
 刀也は猪口の中で揺れる酒をじっと見つめている。恐らく今日の会話を思い出しているに違いなかった。

 椿は大切な人を、父親を亡くしているが、刀也もまた幼い娘を病で亡くしている。外様だったが為に迫害を受け、十分な治療を受けられずにこの世を去ってしまった。その時の刀也には鬼内に対する憎しみばかりがつのっていたのだ。
 椿も父親を亡くしたことで鬼への憎しみや怒りは計り知れないものだろう。計り知れないものだろうとは言っても葉月にも実際その痛みは分からない。ただ直向きに過去を乗り越え職務に励む椿は本当に芯の強いモノノフだと葉月も思う。
 とはいえ、刀也がこんな風に他人へ感傷的になるのも珍しい。きっと酒が入っているからだろうか。「早めに休む?」と刀也を覗き込み、湯呑に水でも注ごうと腰を浮かせると、刀也は葉月の腕を掴んだ。少しよろけて膝立ちになりながら刀也の方へ傾いた。背に回された腕はきつく葉月を抱きしめていた。
 マホロバで生活するうちに、皆大切なものがすこしずつ増えている。こうして刀也が鬼内である椿の心配をするのも、たくさんの出来事を乗り越え互いの絆が深まったが故だ。刀也はどこか一匹狼的で誰にも弱音を吐かず、誰にも頼らない印象だったがその薄い磨り硝子の様な隔たりは今は無い。葉月と二人でいるときだけ他人の心配をしている刀也は情に溢れている。外に出れば堅物だが実際は誰よりも仲間思いなのだ。益々愛おしい気持ちになる。

 刀也に応えるように、葉月も大きな背に腕を回した。浴衣の袖口は肩までずれ上がり、顕になった二の腕に刀也は唇を落とす。鎖骨、首筋、頬とさかのぼり、葉月の唇に触れるか触れまいかの位置で刀也は葉月と額を合わせた。暫く見つめ合ってぱちと囲炉裏の炭が弾け火の粉が宙に舞い、ゆっくりと唇を重ねた。次第に深く求めると息が上がってくる。吐息に僅かな嬌声が混じった所で刀也は葉月の帯に手を掛けた。解けた帯はするりと床に落ち、襟から手を滑らせると半裸になった葉月は胸の前で腕を組み、刀也から顔をそらした。暗がりに囲炉裏の赤橙が混じり白い肌が浮かび上がる。葉月の羞恥を堪能すると刀也はそのまま抱きかかえた。
 布団に寝かせ刀也は葉月を組み敷いた。無骨な手は乳房を掴み何度か先端を摘まれては口で吸われて甘噛みされる。二人とも段々と上気し、刀也も着物を脱ぎにかかった。立派な胸板を葉月は下からそっとなぞると、刀也は少々不敵な笑みを浮かべてお返しと言わんばかりに葉月の腹部を撫で下へ下へと降りていく。咄嗟に膝を合わせるが、抵抗には程遠い。刀也の指先はすぐに葉月の触れてほしい箇所に届き、身体はびくと反応した。溢れる愛液を掬うように指を動かしては突起を弄ぶ。暫く続いていよいよ限界が近づいた葉月はやっと言葉を発した。

「…っ、あまり…」
「あまり、なんだ?」
「触らないで…」

 これ以上の反論は無用だとでも言うように、刀也は今一度葉月の口を塞ぐと今度は足の間に身体を滑り込ませ、一番に熱が燻る所へ顔を寄せた。ぬるりと暖かな感触が伝わって葉月は腰を浮かせると、更に刀也は指を入れた。たちまち陶酔しているかのようなふわふわとした快楽が波の様に伝わってくる。深く深呼吸をして恍惚としていると、刀也はこめかみから葉月の髪をかき上げて額に口づけた。葉月を確かめるように身体の線を撫でると彼女は身じろぎをして、くすぐったいと笑う。一糸まとわぬ姿を見るのはこれが初めてではないのに、いつも以上に葉月の肢体が妖麗に映り煽られている気分になる。何度か行き来をして腰に手を回し、持ち上げて刀也の身体を跨るように葉月を座らせた。濡れた箇所がはっきり分かると葉月は恥ずかしそうに硬直したままだ。刀也は芯をあてがうと、諭すように随分と優しく葉月の名前を呼んだ。

「葉月、」

 葉月は自ら腰を浮かせ、刀也の欲動に触れゆっくりと腰を沈めた。暫く動けずに居るも、刀也は太ももを支えて催促すると葉月も健気に応えた。不埒な音が室内に響き、嬌声は益々なものとなる。情痴は繰り返され、気を遣った葉月は息を荒げても尚繋がったまま刀也の胸板にくたりと倒れた。心音が直に耳に届く。ところが満たされた幸福感にしばし漂い、まどろみに浸っていると突然葉月の視界は反転していた。

「あっ、待って…まだ、っ…」

 真上には刀也が映る。少し嫌な予感がして、笑顔でごまかしてみたが全く意味をなさなかった。

「明日は非番だ」
「し、知ってるよ…」
「ならば問題はない」

 仲間への信頼が刀也の中で大きくなっているのなら葉月は嬉しい。であるならば、時折際限なく恋い慕われるのもまた甘んじて受け入れるべきである。と己に言い聞かせまた溺れるのだった。